志摩観光ホテル
「志摩観光ホテル」は、三重県志摩市にある、日本の迎賓館的な役割も担ってきた格式高いリゾートホテルです。伊勢志摩国立公園内の賢島に位置し、英虞湾（あごわん）の美しい景色を一望できることで知られています。
このホテルは、宿泊施設だけでなく、その歴史と食文化においても日本のホテル史において特別な地位を占めています。
志摩観光ホテルの概要と構成
志摩観光ホテルは、現在主に2つの棟と1つの別館で構成されており、それぞれ異なるコンセプトを持っています。
1. ザ クラシック（The Classic）
特徴: 1951年に開業した歴史ある本館です。日本のモダニズム建築の傑作として知られ、重厚で落ち着いた雰囲気が特徴です。
役割: 長きにわたり、皇族や各界の著名人、小説家（山崎豊子など）に愛されてきました。
食事: 伝統的なフランス料理レストラン「ラ・メール」があります。ここで提供される鮑（あわび）のステーキや伊勢海老のクリームスープは、このホテルの代名詞的な料理です。
2. ザ ベイスイート（The Bay Suites）
3. ザ ヴィラ
特筆すべき歴史と文化
伊勢志摩サミットの舞台
2016年のG7伊勢志摩サミットでは、「ザ ベイスイート」が首脳会議の舞台となりました。この際、提供された料理やサービスは世界的に注目を集め、ホテルの格式を一層高めることとなりました。
文学作品の舞台
作家の山崎豊子が執筆のために長期滞在したことでも有名で、彼女の小説『華麗なる一族』には、志摩観光ホテルをモデルとしたと思われる描写が登場します。
「海の幸」フレンチ
志摩観光ホテルの最大の魅力の一つは、地元の豊富な海の幸を活かした独自のフランス料理です。特に、伊勢海老や鮑といった高級食材を、日本人の味覚に合わせた形で提供するスタイルは、多くの美食家に愛されています。
宿泊情報（参考：2025年10月5日宿泊の場合）
| ホテル名 | ホテルクラス | 1泊の料金（参考） | 特徴 |
| 志摩観光 ザ ベイスイート | 5 つ星ホテル | ￥68,640 | 全室スイート、サミット会場。海を一望できる高級ホテル。 |
| 志摩観光ホテル ザ クラシック | 4 つ星ホテル | ￥34,400 | 歴史ある本館、「ラ・メール」での伝統フレンチ。 |
（※上記料金は2025年10月5日をチェックイン日とした場合の目安であり、実際のご予約時の料金と異なる場合があります。）
志摩観光ホテルは、単に美しい景色を楽しむだけでなく、日本の近現代史と食文化の奥深さを感じられる特別な場所です。
志摩観光ホテル ザ クラシックのロイヤルスイート
オバマ元大統領が2016年の伊勢志摩サミットの際に宿泊されたスイートルームは、志摩観光ホテル ザ クラシックのロイヤルスイートです。
これは、志摩観光ホテルの中でも特に歴史と格式のある部屋であり、通常のご宿泊でも利用が可能です。
オバマ元大統領が宿泊されたスイートルームの詳細
| 項目 | 詳細 |
| ホテル棟 | 志摩観光ホテル ザ クラシック（1951年開業の本館） |
| 部屋の名称 | ロイヤルスイート |
| 広さ | 約96㎡ |
| 特徴 | 窓からは真珠養殖で知られる美しい英虞湾（あごわん）の絶景を一望できます。昭和を代表する建築家・村野藤吾氏が設計したクラシカルで上質な内装や家具が特徴です。 |
| サミット時の対応 | 当日は、アメリカ側が持ち込んだ防弾ガラスが窓にはめ込まれるなど、厳重な警備が敷かれました。 |
【補足情報】ザ ベイスイートとの関係
志摩観光ホテルには、サミットの主会場となったモダンな**「ザ ベイスイート」もありますが、オバマ元大統領が宿泊されたのは、歴史ある「ザ クラシック」**のロイヤルスイートです。
他のG7各国首脳も「ザ クラシック」および「ザ ベイスイート」のスイートルーム（コーナースイートやロイヤルスイートなど）にご滞在されました。
現在、このロイヤルスイートを含め、首脳が実際に利用した部屋は宿泊プランとして提供されています。ご宿泊されれば、首脳が眺めたのと同じ景色と、村野藤吾氏が手掛けた上質な空間を体験することができます。
建築家・村野藤吾
建築家・**村野藤吾（むらの とうご、1891-1984）**は、昭和時代を代表する日本の巨匠の一人です。モダニズム建築が主流となる時代にあっても、日本の伝統的な美意識と繊細な職人技を融合させた独自のスタイルを貫き、「数寄屋（すきや）建築の精神を現代に持ち込んだ建築家」と評されています。
村野藤吾の建築の特徴
村野藤吾の作品は非常に多作で多彩であり、様式を一言で定義するのは難しいとされますが、以下の特徴が共通して見られます。
1. 人間味とディテールへの徹底したこだわり
身体の愉悦（ゆえつ）: 構造や理論よりも、人がその空間でどのように感じるかを重視しました。特に、階段の手すりや壁の質感、照明など、手が触れる部分や視界に入るディテールに対して、驚くほど繊細な配慮がなされています。
素材の質感と陰影: タイルやモルタルなどの素材を、あえて荒く、ざらざらした質感に仕上げることが多いです。これにより、光が当たったときに豊かな陰影が生まれ、建物の表情が季節や時間帯によって変化します。
2. 流麗な曲線と軽快な造形
階段の美学: 村野建築の代名詞とも言えるのが、優美な曲線を描く階段です。単なる昇降の機能を超え、踊り場や手すりにまでこだわり抜き、見る人に軽快さや躍動感を与えるデザインは「動線の美学」とも呼ばれました。特に螺旋階段を好んで用いています。
「むくり」の表現: 屋根などに、わずかに上に向かって反るような**「むくり」（日本の伝統建築の技法）を取り入れることで、建物を薄く、軽やか**に見せる工夫を凝らしました。
3. 多様な様式を柔軟に融合
旅館、茶室といった純粋な和風建築から、オフィスビル、百貨店、公会堂、教会まで、手掛けた建築の種類は幅広く、それぞれの用途に合わせて、和の繊細さとモダニズムの合理性を自在に融合させました。
代表的な建築作品
村野藤吾は生涯を通じて数多くの傑作を残し、1967年には文化勲章を受章しています。
| 作品名 | 所在地 | 竣工年 | 備考・特徴 |
| 日生劇場 | 東京都 | 1963年 | 豪華な装飾とロビーの優美な大階段が有名。村野建築の最高傑作の一つと称される。 |
| 世界平和記念聖堂 | 広島県 | 1954年 | コンクリートとレンガを組み合わせた重厚なファサードが特徴。戦後の建物として初めて重要文化財に指定。 |
| 目黒区総合庁舎 | 東京都 | 1966年 | 元千代田生命保険相互会社本社ビル。アルミ鋳物の格子（ファサード）が特徴的で、現在は区役所として活用。 |
| 都ホテル 佳水園 | 京都府 | 1959年 | 現代の数寄屋建築の傑作として名高い。 |
| 渡辺翁記念会館 | 山口県 | 1937年 | 戦前の代表作。曲面を多用した造形が特徴。 |
村野の建築は、理論よりも感性、機能よりも身体的な心地よさを優先し、細部に神が宿るような職人的な熱意が込められているのが魅力です。
志摩（しま）」
「志摩（しま）」は、三重県志摩半島の南部に位置し、美しいリアス式海岸と豊かな海の幸に恵まれたエリアです。2016年に伊勢志摩サミットが開催された地としても知られ、日本の伝統的な文化とリゾートの魅力が融合した観光地です。
志摩の地理と特徴
伊勢志摩国立公園の中心
志摩市の大部分は伊勢志摩国立公園に含まれており、複雑に入り組んだ海岸線が特徴です。特に**英虞湾（あごわん）**は、大小さまざまな島々と、真珠の養殖筏が浮かぶ穏やかな風景が「日本の原風景」として高い評価を受けています。
「御食国（みけつくに）」
古くから朝廷に海産物を献上していた**「御食国」**の一つとされ、伊勢海老、鮑（あわび）、ふぐ、牡蠣など、年間を通じて質の高い海の幸が豊富に水揚げされる、まさに美食の地です。
観光の拠点
市内には**賢島（かしこじま）や鵜方（うがた）**などの主要な拠点があり、ホテルや観光施設が集中しています。
志摩の代表的な観光スポット
1. 横山展望台（横山天空カフェテラス）
2. 賢島（かしこじま）
3. 志摩スペイン村（パルケエスパーニャ）
4. 灯台巡り
志摩を代表するグルメ
志摩の旅は、新鮮な海の幸抜きには語れません。
伊勢海老: **「海の王者」**とも呼ばれ、刺身、鬼殻焼き、味噌汁など、様々な調理法で味わえます。
鮑（アワビ）: 刺身はもちろん、志摩観光ホテル伝統の鮑のステーキ（海の幸フランス料理「ラ・メール」）が有名です。
あのりふぐ: 的矢湾沖で獲れる、ブランド化された天然のトラフグです。
てこね寿司: 漁師料理がルーツの志摩の郷土料理。カツオやマグロなどの赤身魚を醤油ベースのたれに漬け込み、酢飯と混ぜて握ったものです。
美しい景色、格式高いリゾート、そして美食が揃う志摩は、大人の休日にも家族旅行にも最適な場所ですよ。
G7伊勢志摩サミット（2016年）の際のワーキングディナーは、各国首脳から概ね高い評価を受けました。特に、提供された料理の質の高さと、地元の食材を活かした工夫が絶賛されました。
🍽️ ディナーの概要と評価されたポイント
ビジネスディナーは、サミットの会場となった志摩観光ホテル ザ クラシック（三重県志摩市）で提供されました。料理は、当時の同ホテルの総料理長であった樋口宏江氏（女性）が中心となって手がけました。
1. 料理のテーマと構成
ディナーは、伊勢志摩地域や三重県を代表する最高級の食材をふんだんに使用した、**フランス料理（フレンチ）**のフルコースでした。
伊勢海老のビスク（クリームスープ）: 志摩観光ホテルの伝統的な名物スープ。サミットでは「カプチーノ仕立て」にするなど、現代的で軽やかな感性でアレンジされました。
鮑（あわび）: 伊勢志摩の豊かな海産物を代表する食材。その肉厚で繊細な味わいが評価されました。
松阪牛（まつさかぎゅう）: 三重県が誇る高級ブランド和牛。
2. 首脳からの高い評価
特に、料理は以下のような点で首脳から絶賛されました。
このディナーは、単に豪華な食事というだけでなく、地元の食文化と日本のフレンチ技術の高さを世界に発信する場として、大成功を収めたと言えます。
山崎豊子（やまさき とよこ）が志摩観光ホテルを利用した主な目的は、長編小説の執筆活動と構想練りのためであり、同ホテルは彼女にとっての定宿でした。
特に、代表作の一つである**『華麗なる一族』**は、このホテルを舞台の一つとし、執筆活動が行われた場所として非常に有名です。
🖋️ 志摩観光ホテルでの執筆活動と目的
1. 執筆の「定宿」としての利用
山崎豊子は、大作の執筆に取りかかる際や、重要な場面を書き上げる際に、外界から隔離された静かな環境を求めて志摩観光ホテルに長期滞在することを常としていました。
2. 『華麗なる一族』の舞台と着想
最も有名な利用目的は、小説**『華麗なる一族』**の執筆と、物語の舞台としての利用です。
冒頭の描写: 小説の冒頭にある「陽（ひ）が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞（あご）湾に華麗な黄昏（たそがれ）が訪れる」という有名な一文は、ホテルの部屋から見た英虞湾の壮麗な夕陽の光景を描いたものです。
夕陽へのこだわり: 山崎豊子はこの夕陽の描写のために、何時間も何日も日没の時間を調べ、あらゆる場所から夕陽を観察したと語っています。彼女にとって、この燃えるような夕陽の姿は、作品のテーマである「華麗なる一族」の象徴でした。
定席と文机: 彼女が執筆に使用した机と椅子は、現在、ホテル内の一部で展示されており、作家とホテルの深いつながりの証となっています。
志摩観光ホテルは、山崎文学のインスピレーションの源泉であり、彼女の大作を世界に送り出すための、まさに**「書斎」**のような場所だったと言えます。
